この記事の結論
始めて1か月で分からないことが多くても、自分には無理と決めなくていい。
始めた頃より分かることが増えていればOK。仕事の速さに表れる前にも、理解は進んでいることがある。分かったことがつながると、その後の理解も進みやすくなる。前に進んだと実感することが、モチベーション維持につながる。
転職直後や異動直後のような、新しい職場で仕事を始めて1か月ほど。分からないことの連打に「自分には向いていない。辞めようか」と迷う方も多くいらっしゃると思います。一度聞いたら覚えてねって。私は神ではないし、そんな過酷なことを言われても、と不安になります。
仕事の流れをつかむまでは、正直、結構辛いものがあります。今は周りの人が当たり前にできることでも、そこに至るまでの経験までは見えません。慣れた人の今と、始めたばかりの自分を比べると、できないことばかりが目に入ってしまいます。

1.始めて1か月、分からないことの方が多くて当然
前任者だって、そこに至るまでには相当の時間を要しているはず
引き継ぎ資料には作業の順番が書かれていても、判断理由や例外への対応までは残っていないことがあります。企画や改善のように、目的に合わせて進め方を作る仕事もあります。
前任者のやり方は、その人のスキルや知識、経験、周囲との関係性があって成り立っていた場合があります。「この数字が違ったら、あの人に聞く」といったことまで、資料だけで受け取れるとは限りません。
パーソル総合研究所の2024年の調査では、退職や中長期休に入った同僚の業務を引き継いだ1,350人のうち、47.1%が引き継ぎ時間に不足を感じていました。[1] 資料を受け取った後にも、背景を聞き、実際に扱いながら理解する時間が要ります。
まだ1か月。今できないだけで「私は向いていない」と決めない
仕事が止まる理由には、自分がまだ覚えていないことに加え、目的が曖昧、必要な情報がない、決める人が不明、といったものもあります。情報を持っている人や判断する人が分からないままでは、勉強を増やしても進められない仕事があります。
「もう1か月たったのに」と思うかもしれません。でも、資料の意味を知り、相談できる人を覚え、仕事の流れをつかむには、それぞれ時間がかかります。まだ知らない事情が多い時期に、今の戸惑いだけで、この先もできないと決めてしまうのは早いかもしれません。
困ったときに情報や判断をもらえて、少しずつ分かることが増えているなら、慣れていく途中にいると考えられます。質問するたびに責められる、体調を崩すほどの負担が続くという場合は、我慢を続けるより、信頼できる人に相談して働く環境を見直すことを優先してください。

2.分かることが増えると、仕事の見え方も変わる
知識が増えていても、まだ仕事の速さには表れない
先週より分かることは増えたのに、資料を1つ作るのに今日も半日かかったとします。そんな日には、「結局、何も進んでいないのでは」と思ってしまうかもしれません。
認知負荷理論では、不慣れな情報を一度に扱う負担は大きく、知識がまとまりとして身につくと扱いやすくなると説明されています。[5] 最初は、用語を調べながら操作を覚え、途中で人にも聞く。それだけで頭がいっぱいになっても、不思議ではありません。
数字の意味が分かっても、まだシステムの操作に時間がかかる。操作に慣れても、今度は例外の判断で止まる。そうすると、資料が完成するまでの時間は、あまり変わらないかもしれません。それでも、同じ用語を調べ直す必要がなくなったり、相談先が分かったりしていれば、仕事の理解は進んでいます。
学習研究でも、学んだことが、その場の成績には表れない場合が知られています。[6] この考え方は、毎日の仕事の速さだけで自分を評価しないための手がかりになります。
やがて、「これは前にもやった」「この順番なら進められる」という場面が増えてくる。分かったことがつながってくると、その後の理解も進みやすくなる。下記はそのイメージです。
※理解がつながっていく様子を表した私のイメージです。実測データではなく、誰もがこの曲線どおりに成長することを示すものではありません。

「まだ時間がかかるから、何も覚えていない」とまでは思わなくてよいのです。使う数字の意味が分かる、必要な資料を自分で探せる、誰の判断を待っているか説明できる。今の自分を見直すときは、周りの人との違いだけでなく、任されたばかりの頃からの変化も見てほしいと思います。
まずは、誰が何に使い、どうなれば完成なのか、ゴールのイメージをつかんでおく。そこに向かって進めながら、自分なりのやり方を見つけていきます。手順を覚えるだけでなく、「この作業は何のためにあるのか」「なぜこの方法を使うのか」まで分かれば、条件が変わったときにも考える手がかりになります。
小さな前進が、もう少しやってみようと思える力になる
この途中の前進を考えるうえで参考になるのが、テレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーの『マネジャーの最も大切な仕事』です。本人にとって意味のある仕事が進むことを重視する「進捗の法則」が紹介されています。[3]
アマビールとクレイマーらは、7社・26チームの創造的なプロジェクトに携わる238人から、約12,000件の日誌を集めました。仕事が進んだ日は、感情や意欲、仕事の受け止め方が良好な傾向があり、小さな進捗もその傾向に含まれていました。[2][4]
著者へのインタビューでは、うまくいかなかった理由を上司や同僚と考えて学ぶことも、進んだ実感につながり得ると説明されています。[2]
現在地、ゴール、そこまでの進み方。この3点について、共通認識を持てていない会社は、意外と多いと感じています。前述の著者インタビューでも、明確な目標や必要な資源、時間、助力が進捗を支える条件として挙げられています。[2] 上司もその都度、答える、決める、手配する。この支えが必要です。

3.明日の仕事で、分かることを増やすために
「辞めたい」と思うほど疲れているときに、やることを増やしすぎても大変です。いつもの仕事で、分からないところを聞く。必要な支援を頼む。ここからは、前章の考え方を仕事に生かす具体例を2つ紹介します。
分からない箇所と相談先をはっきりさせる
「全部分からない」と感じるときは、いま止まっている仕事について、どこが不明なのかを見ていきます。
- 目的:誰が何に使い、何ができれば完成なのか
- 材料:どの情報・資料・道具が要り、誰が持っているのか
- 進め方:どんな順番で進め、途中で誰の判断が要るのか
不明点ごとに相談先を決め、誰に何を聞くかを書き出します。相談相手が分からなければ、上司に担当者を教えてもらいます。
どこまでできれば十分なのか、上司と共有する
「覚えられない」という不安には、求められている水準が分からない不安も混じります。
新しい職場への適応を扱った研究でも、役割の明確さと仕事の満足度などとの関連が示されています。[7] 今の段階で何を期待されているかを知ることも、仕事に慣れていくうえで大切です。
「ここまでは自分で決めてよいですか」「この判断はどなたにお願いすればよいですか」と聞き、任された範囲もはっきりさせます。「任せた」と言われても、必要な情報や権限まで使えるようになっているとは限りません。
情報や人手が足りなければ、止まっている作業と期限への影響を添えて伝えます。相談では、「何を用意してほしいか」「何を決めてほしいか」「いつまでに必要か」を明らかにします。支援が間に合わなければ、提出範囲や優先順位、期限の調整も上司に求めます。
任された責任に対して、使える人員や権限、上司の支援が足りるか。私も、転職先でそれらを見落とした経験を振り返っています。
まとめ|始めた頃から、分かることが増えているかを見る
仕事を始めて1か月で辞めたいと思ったとき、まだできないことばかりに目が向くのは、無理もないと思います。それでも、入った頃より分かることが増え、困ったときに助けを得られるなら、今の自分にはもう少し時間をあげてもよいのではないでしょうか。
少しでも流れに乗れたら、あとはこっちのもんだと思って進めてみてください。そこで分かった仕事の仕組みや判断の理由は、次の仕事でも使える経験になります。
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参考資料
[1] パーソル総合研究所(2024年)「オフボーディング(欠員発生時の組織的取組)に関する定量調査」p.3、31
[2] Harvard Business School(2011年)「How Small Wins Unleash Creativity」著者インタビュー・書籍抜粋(英語)
原題:The Progress Principle: Using Small Wins to Ignite Joy, Engagement, and Creativity at Work
[4] Harvard Business School(2004年)「How Team Leaders Show Support–or Not」調査対象・方法についての著者インタビュー(英語)