貯金があっても仕事を辞められない?支出から考える退職後のお金と迷い

仕事を辞めたいのに、貯金が増えても踏み切れない。そんなときは、毎月の支出から、手元のお金で何か月暮らせるかを計算してみます。

この記事の結論

退職に必要なお金は、毎月の支出額から考える。固定費を下げれば、必要な貯蓄も少なくなる。

私の準備の目安は1年半〜2年分。お金の見通しが立ったら、辞めるリスクと「辞めないコスト」を比べます。

1.1億円あっても辞められない?貯蓄額ではなく支出額で見る

Xという魔境の世界では「1億円あっても辞められない」というポストをよく見かけます。

「いくらあれば辞められるか」を考えるなら、貯蓄額だけでなく、毎月いくら使うかが大事だと思います。支出額が仮に月40万円あれば、それを30万円に下げれば、年間の支出は480万円から360万円へ、120万円減ります。暮らしに必要なお金が減れば、FIREを目指すうえでも必要な資金を抑えられます。

退職後の暮らしには、その後ずっと給与に頼らない完全FIREのほか、当面の生活費を用意して一旦仕事を離れる方法もあります。この記事では、休養や次の働き方のために、1年半〜2年ほどの時間をつくる準備を紹介します。

同じ500万円でも、月20万円で暮らす人と、月30万円かかる人では、暮らせる期間がこれだけ変わります。

図1 同じ500万円でも、月の支出で暮らせる期間が変わる

月の支出暮らせる期間
20万円25か月
30万円約16.7か月

収入なし・毎月の支出が一定とした単純計算で、税金・社会保険なども支出に含めます。

まず固定費を見直し、その後の生活費に税金・社会保険を加えて、必要な金額を計算していきます。

電卓とパソコンを使い、右手のペンで退職後の生活費を計算するカウジ

2.固定費を下げ、退職後に必要なお金と何年分持つかシミュレーション

固定費を見直して、今の暮らしの月額を出す

最初に固定費の見直し。生活の質を保ちつつ、できるだけ下げます。通信費や保険料、定額サービスなどが対象です。毎月1万円下がれば、12か月で12万円、24か月で24万円。チリツモです。

固定費の見直しは、退職を考えていない人にもおすすめです。具体的な方法は、こちらの記事にまとめています。

固定費削減30選|実際に減らした支払いと見直し方

食費、日用品費、交際費などの変動費は、生活の質に地味に直結しやすいのと、下げすぎてもストレスを味わいやすいかなと感じたため、今回は割愛します。もし変動費も削減できるなら、検討してみてもいいかもしれません。

退職後の税金・社会保険と、不定期だが発生する費用を認識

退職後には、給与から引かれていた税金や社会保険を、自分で納める場面が出てきます。まずは次の支払いを、退職時期に合わせて見積もります。

表1 退職後の生活費に加える支払い

項目計算に入れるもの
住民税前年所得を基にした額。退職時に納付済みの分と、その後の通知で払う分を区別する。退職年の給与所得は翌年度にも反映される
健康保険国保・任意継続・家族の被扶養者などから、加入する制度の額を使う。国保は前年所得や加入人数等、任意継続は退職時の標準報酬月額等による別の計算
国民年金第1号被保険者になる場合の保険料。2026年度は月17,920円。年度をまたぐ場合は各年度の額で計算する
その他の支払い固定資産税、自動車税、更新料、車検など、対象期間中に必要な額

国保は自治体、任意継続は加入先で額を確認する。日本国内の20歳以上60歳未満で、厚生年金にも第3号被保険者にも該当しない場合は、国民年金第1号への手続きが必要。

出典:横浜市「退職後の住民税」

出典:協会けんぽ「任意継続」

出典:日本年金機構「年金に加入する」

出典:日本年金機構「国民年金保険料」

税・社会保険の制度情報は2026年10月8日確認。自分の金額と手続きは、通知書や自治体・加入先の案内で確認してください。

金額と一緒に支払月も控えておくと、支払いが集中する月に必要な現金が分かります。所得税の精算がある場合は、その額も反映します。

退職後1年半〜2年に必要なお金を計算する

税・社会保険を含む毎月の支出に、準備したい月数を掛けます。月額に含めていない支払いも加えます。私の目安は1年半〜2年分です。

表2 税・社会保険を含む月額から計算する

毎月の支出12か月分18か月分24か月分
20万円240万円360万円480万円
25万円300万円450万円600万円
30万円360万円540万円720万円

収入なし・支出が一定の場合の単純計算。

私の場合は、特定口座の投資信託を含む1,400万円のうち、今後のNISA買付け用に890万円(720万円+170万円)を確保する予定です。別に持つ現金100万円を足すと、計算上610万円が残ります。

1,400万円 − 890万円 + 100万円 = 610万円

月30万円なら約20.3か月分。ただし全額が現金ではなく、価格変動や売却時の税・費用で手取りは変わります。私は余裕を見て、18か月分ほどと考えています。表2の540万円がその目安です。

再就職する場合は、この期間をすべて使い切ってから仕事を探すのではなく、求職開始から最初の給料が入るまでの生活費を残しておきます。事業を試す期間は、その分を差し引いて考えます。

収入は手取り額と入る月が決まった分だけ織り込み、未定なら収入なしで計算します。今も、総資産2,000万円を、生活費や働き方を見直す個人的な目安にしています。

50歳までに目指す暮らし

私が目指すのは、50歳までに資産5,000万円と、月20万円を生むストックビジネス。サイドFIREで、時間にもお金にも余裕のある生活を送りたいと考えています。

どちらも、これから実現したい目標です。今の生活費の計算には、まだ得られていない収入を入れていませんが、頑張ります・・・!

家計表と電卓を使い、右手の鉛筆で退職後の生活費をシミュレーションするカウジ

子どもと住宅ローンがある家庭の、月ごとの計算例

ここからは計算用の架空例です。私の資産や、総資産2,000万円という個人的な見直しラインとは別の話です。40代で子どもと住宅ローンがある家庭を想定しますが、以下の金額は平均額でも、安全に辞められる基準でもありません。

今回使う現金と、残すお金を分ける

お金の区分この例での扱い
現金・預金600万円うち150万円は教育費などのために残す
生活用の現預金450万円退職後の支払いに使う予算
別に持つ投資資産400万円売却しない想定。生活用450万円には足さない

家族から新たにお金を出してもらう前提にはせず、この予算で世帯の支払いを賄います。退職金や給付、事業の売上も、この例では入金を見込んでいません。実際に受け取れる場合は、金額と入金日を確かめてから自分の表へ足してください。

月30万円の支出と、別に払う50万円

毎月の支出仮の金額
住宅ローン9万円
食費・日用品8万円
光熱費・通信費3万円
教育・子どもの費用3万円
健康保険・年金6万円
その他の生活費1万円
合計30万円

健康保険・年金の6万円も、世帯分を置いた仮の予算です。制度上の標準額ではありません。加入する制度と人数に応じ、自分の負担額に置き換えます。

月30万円に含めない支出支払月と仮の金額
住民税2か月目に30万円
固定資産税4か月目に12万円
車検など6か月目に8万円
合計50万円

この支払月・金額は計算のための仮定で、実際の納期ではありません。月額に入れた健康保険・年金は、別枠にもう一度足しません。この例は12か月以内の支出を置いています。年度をまたぐ税・保険料や次の納期がある場合は、その都度追加・修正します。

収入が入らない場合、残高はどう減るか

各月の支払いをすべて済ませ、まだ給与などが入らない場合の残高です。月末残高は「前月の残高−30万円−その月だけの支出」で計算します。

退職後の月収入なしの月末残高
1か月目420万円
2か月目(別枠30万円も支払い)360万円
3か月目330万円
4か月目(別枠12万円も支払い)288万円
5か月目258万円
6か月目(別枠8万円も支払い)220万円
7か月目190万円
8か月目160万円
9か月目130万円
10か月目100万円
11か月目70万円
12か月目40万円

6か月目なら220万円、12か月目なら40万円が残ります。ただし、これは残しておく150万円や投資資産に手を付けず、予定外の支出もない場合です。

内定の日ではなく、初給与の日まで計算する

働ける状態にあり、再就職を選ぶ人の予定として、次の二通りを比べます。どちらも採用までの標準期間ではなく、資金の減り方を見るための仮定です。

予定仕事探しから初給与まで
6か月目に初給与3か月目に求職開始→5か月目に入社→6か月目末に初給与
12か月目まで長引く3か月目に求職開始→11か月目に入社→12か月目末に初給与

入社前に、給与の締め日・支払日と初回の手取り見込額を確認します。初給与が一か月分とは限らないので、この表では入金前の残高を比べています。

初給与が6か月目から12か月目へ遅れると、入金までに使う生活費は180万円増え、残りは220万円から40万円に減ります。さらに8か月目に修理などで60万円の支払いがあると、12か月目の支払い後は20万円不足します。仮に月末に給与が入る予定でも、それより先の支払いには間に合わない可能性があります。

計算したあと、何を変えるか

この例なら「450万円あるから辞められる」で終わらず、まず12か月かかる場合の追加支出まで払えるかを見ます。不足するなら、支出を下げる、使える現預金を増やす、求職の準備を早める、退職時期を見直す、といった対応を退職前に選びます。

求職を3か月目に始める予定なら、その月の始めを最初の見直し日にし、残高・支払い予定・応募状況を確かめます。仕事探しや収入が予定から遅れたら、その都度、初給与までの計算をやり直します。体調のため働けない場合は、この求職予定を当てはめず、相談と休養を優先してください。

事業を試す人は、ここに事業の支出と試す期間を加えます。まだ得られていない売上を生活費から差し引かず、再就職する場合の求職開始から初給与までの予算も残しておきます。

3.辞めるリスクは計算した。「辞めないコスト」は?

当面の生活費を用意でき、家族との費用分担や必要な手続きも整理できた。それでも、「他の人は続けている」「ここまで勤めたのにもったいない」と、決断が止まることがあります。

ここからは、会社を続けることで得たいものと、過去や周囲への引っ掛かりを分けて考えます。

「ここまで続けたのに、辞めたらもったいない」

長い時間や労力をかけたものほど、途中でやめると、それまでの積み重ねまで無駄になるように感じることがあります。過去に費やしたものが、これから続けるかどうかの判断に影響する傾向は、サンクコスト効果として研究されています。

ここで考えたいのは、「これからの1年も、今の会社で働きたいか」です。

たとえば、「20年勤めたから辞めづらい」と、「あと1年働けば退職給付がいくら増える」は、考えている時間の向きが違います。後者は、これから得られるお金として比較に残します。今後の給与、身につけたい経験、大切な人との仕事も同じです。

これまでの経験や技術は、会社を離れたあとにも持っていけます。そのうえで、もう1年続けて得たいものが、これからかける時間や負担に見合うかを考えます。

出典:Arkes & Blumer(1985)The Psychology of Sunk Cost

「周りは働いているのに、自分だけ辞めていいのか」

自分と家族の生活を守る準備ができているなら、周りが働いていても辞めていい。私はそう考えています。

同僚や友人と違う選択をするのは、気になるものです。それでも、生活費や体調、家族への影響は人それぞれ。他人が働いていることだけを、自分が働き続ける理由にしなくていいと思います。

家族と共有するお金や役割については、第2章の数字を使って、誰がどこまで負担するかを話し合います。

家族との話し方を整理したい方へ:仕事を辞めたいと家族へ話すときの考え方

辞める場合と続ける場合、これからの1年を比べる

辞めることで失うものに目が向きますが、続けることで使えなくなる時間もあります。お金の準備ができたら、両方の1年を並べてみます。

表3 会社に残る場合・辞める場合の、これから1年

考えること今の会社に残る会社を辞める
お金手取り収入、増える貯蓄、退職給付の増分生活費、税・保険、使う資金、決まっている収入
時間と体調続く勤務・通勤時間、休める時間、今の負担休養に使う期間、求職や学びに使う時間
仕事で得ているもの残したい仕事内容、役割、人とのつながり会社を離れても続けたい仕事・交流、なくなる日課
家族との生活現在の費用分担と役割を続ける変わる費用分担、家事や予定への影響

仕事に、人とのつながりや頼られる喜びを感じているなら、それも会社に残る理由です。「毎日の長時間勤務は変えたいが、この仕事は続けたい」と分かれば、勤務形態を変えたり、別の職場で続けたりする道も考えられます。

退職後の平日の午前を、何に使いたいか。休養、学び、人と関わる仕事。会社に残る来年の暮らしも思い浮かべて、自分が過ごしたい1日と比べます。

辞めたい理由がまだ混ざっている方は、RICHの4領域から整理する方法もあります。人間関係、望む暮らし、仕事・お金、健康のどこを変えたいのかを考える記事です。

私の退職後の暮らしを知りたい方へ:44歳、次を決めずに辞めてどうなった?退職後の暮らしの記録

退職後のお金を計算できたら、次は「この先の1年を何に使いたいか」です。辞めるリスクと、今の働き方を続ける負担。その両方を見て、自分で決めていいと思います。

体調や家族、退職後の動きも含めて考えたい方へ:次を決めずに退職する前の判断材料

お金・家族・次の仕事の条件を一つの書式にまとめて整理したい方へ。

退職前の比較ノート(有料)

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カウジについて

カウジのアバター カウジ 元管理職

44歳で次の仕事を決めずに退職したカウジです。現在はストック型のスモールビジネスに挑戦中。退職前に考えたことと、辞めた後の暮らしを実体験から書いています。
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