私が初めてリーダーになったとき、長く業務を担っていた人が退職し、ノウハウがほとんど引き継がれていませんでした。残されたデータを読み解いて業務の全体像と運用を復元しながら、新しく入ったメンバーにはExcelを含む実務スキルを教えることになりました。
引き継ぎがないうえに、自分が人へ教える側でもある。こういうとき、私ならまず、締切と確認先を押さえた仕事を一つ選びます。そのうえで、資料から確認できた事実と、自分の推測を分けて記録し、新人には確認が済んだ範囲から渡します。
この記事では、当時の経験を振り返り、同じ状況になったらどう進めるかを考えます。以下の手順や記録例は、今回整理した提案です。当時使った手順書や、実施した順番を再現したものではありません。
まず、期限が近い仕事の完成形と確認先を押さえる
私なら、最初からすべての業務を調べようとせず、上司や関係者に期限と影響を確認して、先に扱う仕事を一つ決めます。何があるかもわからない場合は、直近に提出された資料や、これから必要になる成果物を尋ねるところからです。
その一件について、まず次の三つを確認します。
- 誰が、何のために受け取るものか
- 今回はいつまでに、どの状態まで仕上げる必要があるか
- 内容や例外の扱いを、誰に確認すればよいか
ここがわからないまま、残されたExcelを読み始めても、何を再現すればよいのか決まりません。たとえば月次の集計資料なら、「去年から続く表だから作る」ではなく、今回も同じ項目が必要なのかを受け手に確かめます。
確認できる人がいなければ、その状態を上司へ伝え、判断する人と期限の扱いを決めてもらいます。担当者になっただけでは決められないこともあります。私が転職先で見落とした成果を出すための人員・権限・上司の支援も、仕事を任された責任と、実際に使える条件を分けて考える話です。
完成した資料から、元のデータと作業をたどる
完成形と確認先がわかったら、その成果物がどう作られたのかを調べます。私なら、過去に正式に使われた資料を手掛かりに、元のデータ、途中の加工、最終的な確認の順につながりを探します。
月次の集計表を例にすると、合計欄を見るだけでなく、どの期間のデータを、どの範囲まで集計しているかを確認します。似た名前のファイルが複数あるなら、更新日時だけで最新版と決めず、実際の提出先や保存先と照合します。
調査や練習には、会社のルールに沿って使えるデータと作業用のコピーを使います。元のファイルを直接書き換える前に、保存場所と変更してよい範囲も確かめておきます。
残ったデータからわかることには限界があります。計算結果が一致しても、そのやり方が今回も適切とは限りません。だから、調べた結果は次のように分けて残します。
「確認できた」「そう見える」「判断が必要」を別々に残す
ここで使うのは、完成した手順書ではなく、確認の途中でも更新できる記録です。「前月はこうなっていた」と「今月もこうしてよい」を、同じ欄に入れないようにします。
次の表は、月次集計を調べる場面の架空例です。私の当時の業務資料ではありません。
| 状態 | 記録する例 | 次にすること |
|---|---|---|
| 確認できた事実 | 前月の提出済み資料と元データが見つかった | 保存先と対象期間を記す |
| 現時点の仮説 | 前月と同じ集計範囲でよさそう | 今回も同じ範囲か確認する |
| 判断が必要 | 今月だけ届いていないデータがある | 欠けたまま進めてよいか確認する |
| 確認が済んだこと | 今回の対象範囲を責任者に確認した | 確認日と回答内容を記す |
大事なのは、仮説が確認済みに変わったときに記録を更新することです。「たぶん前月と同じ」で止まったままだと、新人が見たときに、どこまで確かめた話なのか区別できません。
表の「判断が必要」に残った項目は、確認先と一緒に上司へ共有します。相談するなら、たとえば次のように、作業を止めている理由がわかる形にします。
今回の集計対象は確認できましたが、一部のデータがまだ届いていません。この部分を含めない状態では提出してよいか判断できません。確認先と、提出期限の扱いを決めたいです。
これは相談文の例です。期限や担当者は、実際の業務に合わせて書き換えてください。
新人には、確認が済んだ範囲と止まる場所を一緒に渡す
仕事全体に不明点が残っていても、確認済みの作業を切り出せる場合はあります。私なら、まずどこまで任せられるかを見て、その範囲で必要な操作を一緒に確かめます。
たとえば、元データの保存先と集計対象までは確認できたが、提出条件は未確認という場合です。作業用のコピーで集計を練習するところまでは進められても、その結果を正式に提出することは別の判断になります。
「この表を作っておいて」だけで渡さず、次の内容を短いメモにします。
| 渡すもの | 月次集計を例にした記録 |
|---|---|
| 使う資料 | 確認済みの保存先、対象期間 |
| 作業の終わり | コピー上で指定範囲を集計するところまで |
| 止めて確認する場面 | データが欠ける、対象範囲が変わる、数字が合わない |
| 最後に確認する人 | 実際に決まった確認者と連絡先 |
このメモでは、操作の順番だけでなく、新人が自分で判断しなくてよい範囲も伝えます。表の内容が決まっていないなら、空欄を埋めることが先です。未確認のまま「いつもどおり」で任せないようにします。
自分もその業務に詳しくない場合は、教える役割を一人で持つ必要はありません。青森県のOJTマニュアル事例編でも、指導者自身に業務経験がない場面では、周囲の協力を得て情報を共有し、仕事を分担する考え方が示されています。これは職場全体で確認先を作るための参考になります。
一つ進めたら、新人が止まった場所も記録する
説明した後は、新人に作業してもらい、どこで止まるかを一緒に確かめます。自分にはわかる操作でも、初めて触る人には、対象のファイルを選ぶ段階から説明が必要かもしれません。
私なら、その場で答えたことを、先ほどのメモに書き足します。毎回口頭で補うのではなく、次に同じところで止まったときに確認できる形にします。自分にも答えられなかったことは、推測で埋めず、未確認の欄へ戻して確認先につなぎます。
一件を進められたら、同じ形式で次の業務へ広げます。最初から立派なマニュアル一式を作るより、実際に使った資料と、作業中に確かめたことが結びついた記録を増やしていく方が、私には取り組みやすい方法です。
落ち着いたら、自分が何を復元し、どんな説明を追加したかも残しておくとよいと思います。そうした仕事を経験として振り返る方法は、職務経歴書に使える実績を整理する記事にまとめています。
今、何から手をつけるか迷っているなら、まず一つの成果物について、締切と確認先を確かめてみてください。その一件でわかったことと、まだ判断できないことを書き分ければ、新人に渡せる範囲も考えやすくなります。

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[…] 前任者から十分な引き継ぎがなく、自分も新人へ教える立場なら、残されたデータから仕事を確かめ、新人に渡す範囲を分ける方法も参考にしてください。 […]