「今の会社を離れたら、自分には何も残らないかもしれない」。転職前はそう思っていました。ところが新しい職場で、私には日常だった段取りを教えてほしいと言われました。
長く同じ会社で働き、「自分の経験は社外では評価されない」と感じている40代へ。43歳で異業種へ転職した私の経験をもとに、社内では当たり前だった仕事を、社外で通じる強みとして見つけ直す方法を書きます。
当たり前にできることほど、自分では強みに気づけない
私は転職前、自分に特別な強みがあるとは思っていませんでした。
段取りを組む。遅れそうな工程を見つける。抜け漏れが起きる前に確認する。関係者へ早めに話を通す。
前の会社では、どれも日常の仕事でした。資格のように名前が付いているわけでも、表彰されたわけでもありません。
同じ場所に長くいると、苦労せずできることほど、自分では価値を低く見積もることがあります。
「その段取りを教えてほしい」と、転職先で立場が変わった
43歳で異業種へ転職した私は、新しい職場では新人でした。
一方、その職場には専門知識を持つ人が多くても、プロジェクト全体を見て、誰が、いつまでに、何をするかを組み立てる役割が不足していました。
あるとき、私はガントチャートを作る側ではなく、その作り方を教える側として求められました。表の操作に加え、どの数字を見て、どこで止めて確認するかまで伝えました。
この工程を始める前に誰へ話を通すのか。確認に時間がかかる箇所はどこか。後から抜けが見つかりそうなのは何か。
前の会社で身につけた先回りの仕方です。私にとっては「いつもの段取り」でしたが、別の職場では、「その段取りを教えてほしい」と頼まれる力でした。
転職前から持っていた段取りの力が、新しい職場で初めて見えました。同じ水でも、十分にある場所と足りない場所では価値が変わります。私の段取り力も、それが不足している職場へ移って初めて、役立つ力として認識されました。
すべての会社で評価される保証はありません。それでも、「長く働いても何も残っていない」という私の予測は、この経験で崩れました。
「通用しない」と先に決めれば、確かめずに済む
長く同じ会社で働くと、毎月の給料、社内での信用、仕事の進め方、困ったときに頼れる人が積み上がります。
私が失いたくなかったのは、肩書きや待遇だけではなく、「この会社なら何とかできる自分」でした。
長く勤めれば、誰に話せば仕事が進むか分かります。ところが会社を変えれば、年下の人に教わり、初歩的な質問をし、思うように動けない自分を見ることになるかもしれません。
「転職には危険がある」と考えるだけなら現実的です。しかし私は、いつの間にか「危険がある」を「自分には無理だ」に変えていました。
変化を避けて今の状態を選びやすくなる傾向は「現状維持バイアス」と呼ばれます。Schweitzerの研究では、「今の状態を選びやすいこと」と「あえて行動しないこと」は、別々に判断へ影響すると示されています。
この研究が示すのは一般的な自己評価の傾向です。40代の転職に対象を絞った調査ではありません。「長年働いた自分を否定されたくなかった」という部分は、当時を振り返った私自身の内省です。
「年収が下がるかもしれない」は「きっと下がる」になる。「不採用になるかもしれない」は「自分には市場価値がない」になる。
どれも起こり得ることです。しかし、起こり得ることと、すでに分かっていることは別です。
自分の経験が、社外ではどんな力に見えるか聞く
自分の経験が社外の人にどう見えるかは、頭の中だけでは分かりません。いきなり応募したり、会社を辞めたりする必要はありません。
最近、自分が解決した小さな問題を一つ思い出してください。遅れた仕事の順番を組み直した。新人向けに手順を整理した。部署間の認識を調整した。それで十分です。
次に、今の会社以外の仕事を知る人へ一度だけ話します。依頼文はこれで十分です。
転職を決めるためではなく、自分の経験を社外の言葉に直したいと思っています。この経験は、あなたの仕事では、どんな役割や問題を解く力に見えますか。思いつく言葉を率直に教えてください。
「私は評価されますか」ではなく、自分には見えていない使い道を聞きます。
一人の反応だけで市場価値は決まりませんが、自分の経験を外から見る手がかりになりました。自分だけで下していた「通用しない」という判定を、いったん保留する材料です。
話せる相手がいなければ、公的な相談先を使ってもいい
相談できる知人がいなければ、まず次の三つを書き出します。
- 誰が、何に困っていたか
- 自分は、何を考えてどう動いたか
- その結果、何が変わったか
次に、会社特有の言葉を一般的な言葉へ置き換えます。
「部署間に根回しした」なら「利害の違う関係者を調整した」。「確認表を作った」なら「ミスを防ぐ業務手順を整えた」。
そのメモを持って、厚生労働省「マイジョブ・カード」の無料キャリアコンサルティングを利用する方法もあります。
経験を言葉にしたい方は、転職で経験を棚卸しする方法へ進んでください。
経験が役立つことと、その会社で無理なく働けることは別でした。会社との相性を見落とした経緯は、年収200万円アップでも転職に失敗した経験にまとめています。
