東京の会社で働きながら、窓の外には尾道の海が見える。そんな暮らしを実際に選んだ会社員がいます。
広島県の移住者インタビューで紹介されている陶山さんは、「尾道に住みたい」という思いから、リモート勤務ができる会社へ転職しました。まず自宅で仕事を試し、会社とも調整したうえで、尾道駅の向かいに見える向島へ移住しています。
先に住みたい場所があり、それを実現できる仕事を選ぶ。今思えば、私がこれまでしてきたのは逆でした。先に会社を決め、その会社へ片道1時間で通える場所に住む。それを当たり前だと思っていました。
次、転職するならば、この順番を変えてもいいかも?年収や仕事内容だけでなく、「どこで暮らしたいか」から仕事を選ぶ。そのために、リモート勤務を転職条件に入れるという話です。
事例:広島県公式サイト「尾道に住みたい。その一心で東京の企業に所属し完全リモートワーク」
会社に通える場所から、暮らす場所を選んでいた
2026年8月21日、LASSICのテレリモ総研が、テレワーク経験のある20〜65歳の働く人1,004名を対象にした調査を公表しました。
フルリモートまたはハイブリッド勤務の人のうち、地方・郊外に住みながらテレワークをしている人は21.8%。現在フル出社している人では4.9%でした。
この21.8%には、テレワークを機に移住した人だけでなく、もともと地方・郊外に住んでいてテレワークが定着した人、都心から近郊へ引っ越した人も含まれます。つまり、移住した人だけの数字ではありません。それでも、働く場所に縛られない人ほど、会社の近く以外にも暮らしの選択肢を持っていることは分かります。
会社へ毎日通うなら、住める範囲は会社を中心にした通勤圏です。出社が週1日、月1日と減れば、その円は一気に広がります。数字を見て私が気になったのは、地方移住の多さより、この単純な違いでした。
これまでは、会社へ通える場所から家を選んでいました。考えてみれば、住む場所まで会社に決めてもらっていたようなものです。リモート勤務を転職条件に加えるのは、その順番を自分で決め直すことだと思っています。
調査詳細:LASSIC テレリモ総研の2026年8月21日公表調査
片道1時間を当たり前だったが・・・
私はこれまで、片道1時間ほどかけて会社へ通っていました。朝、家を出て駅へ向かい、混んだ電車に乗る。仕事が終われば、同じ道を1時間かけて戻る。それが会社員なら普通だと思っていました。
月20日出社すれば、通勤だけで月40時間、年間では480時間になります。電車で本を読むことはできても、家族と過ごしたり、運動したり、好きなことに使ったりできる時間とは違います。
もちろん、毎日を完全なリモート勤務にする必要はありません。週2日出社のハイブリッド勤務でも、毎日出社する働き方に比べれば、月に何日分もの時間が戻ってきます。
ここで「浮いた時間を勉強や副業に使う」と言えれば格好いいのですが、正直、私はゲームをしたいです。往復2時間を削れたら、月20日で40時間。ドラクエ3なら、版や遊び方による差はありますが、本編を最後までクリアできるくらいの時間です。2週目として、3人遊び人PTを組み始めているやも。
今まで私は、ゲーム1本をクリアできる時間を毎月、通勤電車に渡していたことになります。そう考えると、片道1時間は「仕方のない移動」ではなく、かなり大きな生活費です。
朝食をゆっくり取る日があってもいいし、夕方に散歩してもいい。何か立派なことをするためではなく、自分の好きなことに使える時間を取り戻したい。私にとって、リモート勤務を条件にする理由はそれで十分です。
年収が50万円上がる転職と、年収は同じでも毎月20時間以上、自分の時間が増える転職。今の私は、後者も同じくらい真剣に比較したいと思っています。
出社回帰の今こそ、リモート勤務を希望ではなく条件にする
結論から言えば、リモート求人は以前より選びにくくなっています。だから「もう無理だ」と諦めるのではなく、譲れないなら転職条件として最初から会社を選ぶしかありません。
Gartnerが2025年に発表した日本企業の調査では、「リモートワークをまったく実施していない、または実施予定がない」企業が、コロナ禍中の12.6%から22.6%へ増えました。リモート勤務を続ける企業でも、利用できる社員を絞る動きが出ています。
一方、国土交通省が2026年3月24日に公表した令和7年度テレワーク人口実態調査では、直近1年間にテレワークを実施した雇用型就業者の割合は全国16.8%。前年より1.2ポイント増え、コロナ禍後の減少から増加に転じました。
Job総研の2025年調査では、出社回帰が「ある、または予定されている」と答えた人は51.9%。実際の出社頻度は週5日が37.6%で最多でした。一方、理想を週3日以下とした人は70.9%です。会社が戻したい働き方と、働く人が望む暮らしには、かなり距離があります。
リモート勤務は消えていません。ただ、会社の厚意でいつまでも続く働き方だとも思わない方がいい。LINEヤフーも、国内なら居住地を選びやすい制度を進めたあと、2025年4月から出社日を設け、現在の採用情報では週3日以上の出社を基本としています。
ここで言いたいのは、LINEヤフーの判断が悪いということではありません。会社の方針は変わるということです。出社回帰の今、リモート勤務を本当に譲れないなら、福利厚生のような「希望」ではなく、週何日出社するのか、居住地制限はあるのか、制度変更時に遠方居住者をどう扱うのかまで確認する転職条件にする必要があります。
ここを曖昧にしたまま入社すると、「家で働けると思って転職したのに、結局また片道1時間」ということになりかねません。リモート勤務を叶えたいなら、希望欄に書くだけではなく、入社前に具体的な数字で確認する必要があります。
求人票に「リモート可」とあっても、週4日出社かもしれない
「リモート可」は、勤務日数を約束する言葉ではありません。dodaの調査では、ハイブリッド勤務が認められている人でも、実際のリモート勤務は週1日が38.0%で最多でした。同じ「リモート可」でも、週4日在宅の人と週1日在宅の人では暮らしがまったく違います。
求人票を疑うというより、「可」の中身と、将来変わる可能性まで確認する。そこまで聞いて、初めて転職条件として比べられます。
私なら応募前か面接で、最低でも次の6つを確認します。
| 確認すること | 聞きたい内容 |
|---|---|
| 出社頻度 | 原則は週何日か。繁忙期だけ増えるのか |
| 開始時期 | 入社直後から使えるか、試用期間後か |
| 居住地の制限 | 全国から勤務できるか、通勤圏内に限るか |
| 勤務時間 | フレックスか。固定時間やコアタイムはあるか |
| 配属先の実態 | その部署で実際に何人が、週何日利用しているか |
| 制度変更時 | 出社日が増えた場合、遠方居住者はどう扱われるか |
特に聞きたいのは、制度ではなく配属予定チームの実態です。「制度として週2日まで可能」でも、チーム全員が毎日出社していれば、入社後に一人だけ使うのは難しいかもしれません。
私は以前の転職で年収をかなり重視しました。今なら、それだけでは足りないと分かります。給与、仕事内容、上司、残業、出社頻度。それらを並べて、入社後の月曜日から金曜日までを想像した方がいい。
私が欲しいのは地方移住ではなく、会社に奪われない時間
尾道へ移住した人の話から始めましたが、この記事の核心は地方移住ではありません。私が欲しいのは、会社に行くためだけに1日2時間を失わなくていい暮らしです。
今の家に住み続けてもいい。都会を離れなくてもいい。ただ、仕事が終わったあとにドラクエを起動して、レベルを上げ、転職し、昨日の続きへ進める夜が欲しい。会社の近くに住むことより、自分の機嫌を自分で取れる平日を選びたい。
住む場所を変えられることは、その象徴です。会社へ通える範囲の中から人生を選ぶのではなく、自分が暮らしたい場所を先に置ける。選んだ結果が今の町でも、海の近くでも、実家の近くでもいい。重要なのは、会社に決められた円の中でしか考えられない状態から抜けることです。
私は転職で年収を上げました。それでも働き方が合わず、会社へ行けなくなりました。だから次は、給料だけで自分を納得させたくありません。「通勤に何時間渡すのか」「仕事のあとに何をする余力が残るのか」まで、転職条件として見ます。
その時間を取り戻せる会社が、本当にあるか
理想だけなら、好きな場所で働きたいと言えます。問題は、今の私の経験と年収で、その夜を取り戻せる会社が本当にあるのかです。求人票だけでは、リモート勤務の実際の運用や、応募できる求人の範囲までは分かりません。
転職エージェントを使うなら、応募を急かしてもらうためではなく、こちらの条件が現実に通用するかを確かめるために使います。リモート勤務を外せば何件、週2日出社までなら何件、居住地自由なら何件あるのか。数字が出れば、夢なのか、選べる現実なのかが分かります。
現在の職種、年収、勤務地に加えて、「週何日までなら出社できるか」「将来どこに住みたいか」まで伝える。その条件で紹介できる会社があるかを聞けば、辞表を書く前に現実的な選択肢が見えてきます。
ここで確かめたいのは、「転職できるか」だけではありません。これからも毎日2時間を通勤に渡す働き方しか選べないのか、それともゲームをする夜を取り戻せる仕事があるのか。その答えを、辞表を書く前に知っておきたいのです。
毎月ゲーム1本分の時間を、会社に渡し続けるのか
片道1時間、往復2時間、月40時間。ドラクエを一本クリアできる時間を、私は毎月会社へ通うために使ってきました。年間なら480時間です。ゲームなら何本終えられるのか。考えるほど、もう小さな話には見えません。
次の転職で私が選び直したいのは、勤務地ではなく平日の使い方です。仕事を終えても何も残らない夜と、好きなことをしてから眠れる夜。年収が同じなら、私は後者を選びたい。少し年収が下がっても比較する価値はあると思っています。
会社へ行くために住む場所を決め、ゲームをしたい夜まで電車に渡す。それをこの先も「会社員だから仕方ない」で続けるのか。私は次の転職で、年収の横に「通勤に渡す時間」を書いて比べます。
通勤がゼロに近づけば、毎月40時間が戻ってきます。給料明細には出ませんが、私にとっては大きな昇給です。リモート勤務を条件に加えるのは、ラクをするためではありません。会社に渡していた自分の夜を、取り返すためです。
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